調律師によるガチの構造説明シリーズ④レガートは見える としチャンネル@YouTube

こちらの動画を文章でまとめています。ほぼ同じ内容になりますが少しでも参考になれば嬉しいです。

レガートは見える

・レガートが先生のところでうまく弾けません

・色々なレガートを作りたい

・ピアノによってレガートの感覚が違うのはなぜですか

など、YouTubeを始めてからレガートについてのご質問をたくさん頂きました。

確かにこのレガートの感覚ってピアノによって全然違いますし、ピアノが置いてあるところの響きによってもかなり変わると思います。

レガートで弾くには、音を鳴らしてから鍵盤を戻した時のどこに音が消えるポイントがあるのかを音を聴きながら判断しないといけないのがピアニストのリアルとよく聞きますが、

このレガートのポイント、音を聴く前に大体のタイミングは目で見て確かめることができます。

大体のタイミングを目で確認してから音に集中することによって、レガートが少しでも弾きやすくなればと思います。

アクションモデルを使った解説

※動画内ではアクションモデル(鍵盤の模型)を使って解説しています。

レガートのための大切な部品「ダンパー」

ダンパーという音を止める役割をしている部品があって、この部品の動きがレガートを考えた時に重要になります。

このダンパー、グランドピアノの場合は譜面台を外せば見ることができます。

この部品の動きを理解することによって、レガートがやりやすいピアノと、音がすぐに切れてしまうピアノの違いを感じることが出来ます。

ダンパーの仕組み

普段は弦の上に乗っかっていて、弦が振動しないように止めています。

このダンパーからワイヤーが下に伸びていて、ダンパーレバーという部品と繋がっています。この部品を鍵盤の一番先の部分でまるごと持ち上げている仕組みになっています。

鍵盤を押すと、ハンマーが弦を叩く時に振動を止めないように弦から離れます。

そして鍵盤が戻るとダンパーも元の位置に戻って再び弦の振動を止めるという動きになります。

レガートのタイミングの違い

レガートに注目した時に、いつダンパーが弦から離れて、いつ弦を止めるのかが重要で、このタイミングがピアノやメカニックの状態によって変わります。

具体的にアクションモデルで言うと、鍵盤の先とダンパーの下についている部品との距離です。

写真では見づらいのですが、この距離が近ければ鍵盤を押してすぐにダンパーが持ち上がる、遠ければ遅めのタイミングということになります。

ちなみに僕たち調律師は、鍵盤ではなくハンマーがどこまで持ち上がった時点でダンパーが上がり始めるのかを見ています。(弦までの距離の半分くらいです)

【最重要】ダンパーが持ち上がるタイミング
=弦の振動が止まるタイミングを確認する方法

グランドピアノ(譜面台を外した状態)でダンパーを見ながら鍵盤をゆっくり押し下げていってください。

ダンパーが持ち上がる瞬間を目で見ることが出来ます。この時に鍵盤のなんとなくの位置を覚えてください。

音を鳴らした後に、今確認したこの持ち上がるポイントまで鍵盤を戻せばダンパーが再び弦の振動を止めます。ここがレガートのポイントです。

構造視点から言えば、このポイントの直前で次の音を鳴らせばレガートという事になります。

この部分に対して今弾いている場所の音響が加わるので、今度はダンパーが再び弦に触れる瞬間にどんな音の消え方をしているのかを聴けば色々なレガートが作れるのかなと思います。

レガートが弾きづらいピアノの状態の特徴(動画でカットした部分)

さきほど鍵盤をゆっくり押し下げて頂いて、ダンパーがいつ弦から離れるのかを目で確認して頂いたと思うのですが、このタイミングが遅ければ遅いほどレガートで弾く時に注意が必要になります。

タイミングが遅い=鍵盤を少し戻しただけでダンパーが弦の振動を止める

ということになります。

これは調整で変えられるので、ご自宅のピアノがこの状態で気になっている時には普段来られている調律師さんに相談してみてください。


※ダンパーの調整は場合によっては繊細な作業でかなり時間が掛かるため(
いつもの調律の時間内でできる作業ではありません)、お願いする前に必ず作業料金も含めて相談しましょう。

音を「止める」ではなく「和らげる」

ここまでダンパーの役割について、音を止めるための部品と説明してきましたが、実はこれは正解ではありません。

ドイツ語でdämpfenという単語があって、この部品もDämpfung、Dämpferって言ったりするんですが、

この単語の意味は止める、あるいは消すではなく「和らげる」です

音以外に光や感情を和らげるという時にもこの単語を使ったりします。

これはピアノが置かれている環境の違いでもあるんですが、ヨーロッパを日本と比べた時には残響の多いところにピアノが置いてあることがとても多いです。

こういったところでピアノを弾くと、鳴らした音は鍵盤を離してもしばらく響き続けています。

例えばかなり短いスタッカートを弾いたとしても、ぱっと音が消えるという事はほぼありません。

ですので、このダンパーの役割を考えた時に、どう音を止めるのかというよりは、

どう音を残すのか、どう和らげるのかに重きが置かれているように感じます。

まとめ

レガートのタイミングはグランドピアノであれば、ダンパーの動きを見れば大体のポイントを確かめることが出来る。

そのポイントを理解した上で音に集中すればより早くそのピアノと会場に順応できる。

というわけで以上になります。
これらの構造の知識が少しでも舞台上で「音と音楽だけに集中する」ための手助けになればとても嬉しいです。
最後まで読んで頂きましてありがとうございました。
としさん