こちらの動画を文章でまとめています。ほぼ同じ内容になりますが少しでも参考になれば嬉しいです
鍵盤は1cmしか下がらない?
この言葉、聞いたことがある、あるいは言われたことがあるという方、少なくないと思います。
実際に僕も言われたことがありまして、昔はスポーツ少年だったためガンガン弾いていたんだでしょう。
「50m走なら走り抜けるのが正解だけど、ピアノの鍵盤は1cmしか下がらないから無駄な力を入れないで弾いて」なんて言われました。
当時は「なるほど」ってなりましたが、よくよく考えてみるとこの言葉
若干ボヤっとしているというか、
鍵盤が1cmしか下がらないから力を抜いて弾く
・・・だから何?
ってなりませんか?
この言葉、構造的には間違っていないんですが、弾き手の目線から構造を考えると正解じゃないんです。
この部分について掘り下げていきます。
アクションモデルを使った説明
※動画内ではアクションモデル(鍵盤の模型)を使って解説しています。
鍵盤は1cmしか下がらないって何?
鍵盤を底まで押し下げた時の、鍵盤が沈む深さのことです。
ちなみに弾き手側から見て鍵盤の端っこ部分(手前側)の底までの距離が1cmということになります。
・・・この説明、ピンとこないですよね。
この説明がどういうことなのか、また弾き手から見てどういう事なのかについて解説していきます。
鍵盤はシーソーになっている
動画を見て頂くとすぐにわかるのですが、鍵盤はシーソーになっていて「てこの原理」が働いています。
構造視点から見ると、普段見えている部分を押す事によって、シーソーの向こう側に乗っているもの(ハンマーなどの部品)を持ち上げる仕組みになっています。
演奏者にとって”シーソーになっている”とは
ピアノを弾く時に鍵盤のどこを指で押し下げているかを意識したことはありますか?
子どもが両側2人ずつ座れるシーソーを思い浮かべてみてください。シーソーが下についた時には、後ろ側に座っている子どもの方が低い位置にきますよね。
原理はこれと全く同じです。
これをピアノで言い換えると、鍵盤がシーソーになっているという事は、
演奏者はいつも鍵盤を1cm押し下げているわけではない
という事になります。
もっというと、この1cmという数字はそんなに重要ではなく、
鍵盤に触れる位置によって、指で押し下げる量は変わるということになります。
この事について、ここから目の前のピアノで実際に鍵盤の位置による違いを感じてみましょう。
底までの距離の違いを感じる(実践➀)
鍵盤の一番手前と一番奥の部分を繰り返し交互に底につくまで押してみましょう。
いつ底に届くのかなぁといった感じに考えるとわかりやすいです。
手前の方が距離が長くて、奥は割とすぐに下につくと思います。
この時もさきほどの遊具の写真を思い浮かべると違いが感じとりやすいと思います。
注意点としては、指を上から落とさずにまず鍵盤にそっと触れた状態から降ろしてみてください。
鍵盤の重さの違いを感じる (実践②)
これをやってみると、あることに気付くと思います。
それは手前と奥でタッチの重さが変わるという事です。
これも「テコの原理」が働いているからということになります。
手前が軽く、奥にいくとタッチは重たくなります。
重さの違いを意識しながら先ほどと同じように手前と奥、あるいは手前から少しずつ奥に指をずらしていってその違いを感じてみてください。
ここまで完全にタッチの違いに注目してきました。今度は音に注目していきます。
音の違いを感じる(実践③)
鍵盤の押す位置によって底までの距離や重さが変わるという事は、それによってシーソーの向こう側に乗っている部分(ハンマーなど)の動き方が変わる。
つまり音が変わる
という事になります。
個人的にはここが1番重要なポイントです。
手前と奥で音量や音色がどう変わるのかを試してみてください。
この時に各音域、また弾く強さをそれぞれ変えてみてどうなったかを感じてみてください。
先ほど鍵盤が底につくまでの距離や重さが場所によって違う、という事を明確に感じ取って頂いたと思います。
そして今、「ただなんとなく音が違う」ではなく、「〇〇だから音がこう違う」という風に、以前よりも具体的に「音」を捉えることが出来ているのではないでしょうか。
動画でカットした部分
ここから動画でカットした部分について書いていきます。
「手前あるいは奥を弾いた時にそれぞれ音ってどうなるんですか?」って思った方、またはこの事について知りたい方いらっしゃるはずです。
大変申し訳ないのですが、
ピアノや置いてある場所によって変わります。
というのが現時点で僕が出来る回答になります。
もっと正確に表現すると、
ピアノや置いてある場所によって「音の変わり方」が変わる
となります。
第1回目の動画で少しお話したのですが、ピアニストさん達の話によると、この部分への順応のために楽器の構造の知識が少し役に立つのかなと僕は考えています。
ピアノのサイズによるタッチの違い
これは「鍵盤がシーソーになっている」ということについての補足で、ただ覚えておけばOKな知識になります。
ピアノのサイズが大きくなると、鍵盤の手前と奥のタッチの差が少なくなります。
これは鍵盤が長くなるためです(普段見える部分の長さは同じです)。
コンサートホールに置いてあるようなフルコンサートグランド、緊張はさておいてものすごく弾き易いと感じたことはありませんか?
楽器のコンディションが良い、舞台の音響が良いといった理由もありますが、1番の理由は鍵盤の長さがとても長いという事です。
逆に言うとピアノが小さくなればなるほど、手前と奥でのタッチの差は大きくなります。
この知識は頭の片隅に入れておくと、いつの日かほんの少しですが役に立つかもしれません。
さいごに~魅力的な演奏をされるピアニストさんの話~
今回の構造説明シリーズ2回目でお話した内容、ピアノの構造から見れば入り口部分の本当に小さな要素です。そしてこんな事考えなくても全然問題なくピアノは弾けます。
ただ、この部分について個人的に思うことがあります。
調律師という職業をしていると、幸運にも魅力的な演奏をされるピアニストさんから直接音楽の話を伺えることがあります。(僕の場合本当にごく稀です。)
この時にいつも思うのは、「たった1つの和音、あるいは音符、もっと言うと休符にそんなにたくさんのメッセージを込めて演奏しているんですか」という事です。
そしてそのメッセージひとつひとつが決して難しいものではなく、僕が聞いて納得できるくらいの簡単なこと、というかある意味考えてみれば当たり前の事だったりします。
こういった普通の人が見向きもしないような本当に小さな小さな要素、この積み重ねが結果的に音や音楽の密度になり、僕たちを感動させてくれるのかなといつも感じます。
ですので、プロのピアニストを目指すという事であれば、”鍵盤の弾く位置によって動きが変わります”なんて当たり前過ぎる小さな事なんですが、知識として知っておくのも無駄にはならないのかなと個人的に思います。
というわけで以上になります。
さいごまで読んで頂きましてありがとうございました。
としさん