調律師によるガチの構造説明シリーズ➀鍵盤の底を意識するの”先” としチャンネル@YouTube

こちらの動画を文章でまとめています。ほぼ同じ内容になりますが少しでも参考になれば嬉しいです。

ピアニストになるのに、ピアノの構造の知識は必要なのか

僕の個人的意見としては

必須ではない、ただ持っていた方がいい

です。この部分について書いていきます。

あるピアニストさん達の話

オーストリアに来てから色々な現場で調律師として仕事をさせて頂く機会がありまして、その中にはコンサートや音楽祭での調律もありました。こういったところで演奏するピアニストさん達は当たり前の話ですが本番の経験値、繊細ながらも強靭なメンタルといった共通点がありました。

ですが、僕が最も驚いた点は

ピアノという楽器の構造の理解度が異常に高いということ

普通に専門用語がバンバン出てくるし、僕が調律師として知っていることはほぼ全て同じように理解していて、さらにそれを演奏、つまり音楽に繋げている印象を受けました。

なぜそんなに詳しいのか聞いてみた話

第一声はどのピアニストさん達もほぼ同じでした

「必要だからだよ」

というわけでさらになぜ必要なのか聞いてみたところ3つの答えが返ってきました。

  • 音楽に集中するためにはピアノと一体化する必要があって、そのためには楽器そのものの構造の知識が必要
  • 弾きなれないピアノを弾く機会が多いから、目の前の楽器に慣れるのに知識が役立つ
  • 色々なピアノを弾いた経験がより具体的なものとして自分に蓄積されていく

どれも納得のいく答えです。

3つともに音楽性や技術はもちろん「順応力」のために役に立ちそうですね。

3つの答えから調律師視点で考えるピアノの構造が順応力に役立つ例(動画で話していない内容あり)

ピアニッシモが出しづらいピアノの話

ここではアフタータッチを例としてあげます。

アフタータッチが少な過ぎるピアノと多過ぎるピアノ、どちらもピアニッシモが出しづらいのですが、構造の視点から言うと弾く際に気を付けるポイントは全然違います。

ピアニッシモが出しづらい→こう弾いた

よりは

ピアニッシモが出しづらい→アフタータッチが少なすぎる→こう弾いた

の方がより具体的な経験として自分の記憶に残りますし、この経験から早く目の前のピアノに慣れることが出来ればより音やその先の音楽に没頭出来ますし、リハーサルの純度も上がります。こういった意味ではメンタル的にもほんの少し余裕ができるかもしれません。

コンクールの話(動画ではカットしました)

コンクールはコンサートとは違って同じ環境、同じピアノをたくさんの人が弾いてその中で評価されます。

音楽性や技術はもちろん、表現したいことが出来るのかという順応力が必要になる場面なのかなと思います。

この順応力、もちろん大部分を占めるのは経験とメンタルのはずです。これに比べれば小さな要素ではあるのですが、構造の理解もこの順応力の役に立つのかなと調律師としてピアニストさん達の話を聞いた時になんとなく感じました。

アクションモデルを使って解説したこと~鍵盤の底を意識するの先~

鍵盤が底につく瞬間に集中してなんて言われたことがある方もいるかと思います。この部分について調律師視点で深掘りしていきます。
※動画内ではアクションモデル鍵盤の模型)を使って解説しています。

鍵盤が底につく時にピアノに何が起こっているのか

結論から言うと

ハンマーが弦と叩いています。

これは鍵盤からハンマーまでのメカニックの設計の時点で、鍵盤が底につく時にハンマーが弦に届くように計算されています。
※120%いつも同時と言うと間違いになりますが、ほぼほぼ同時に弦を叩く、つまり音が出ると考えていいと思います。

ピアノの世界には色々な弾き方や奏法があると思うのですが、
鍵盤が下についたとほぼ同時に弦が振動するという事実はかわりません。

では何が変わるのかというと、鍵盤の先についているハンマーが弦に向かっていく時の動き方が変わります。

この部分が構造視点から見るととても大切な部分です。

なぜかというと、このハンマーの動き方が変わることによって弦の叩き方、つまり弦の振動(音)が変わるからです。

【最重要】結局のところピアノという楽器はハンマーが弦をどう振動させるのかで音色や音量が変わる仕組みになっています。

例えば遠くまで届くピアニッシモや割れるフォルテッシモと割れないフォルテッシモの違いなど、大体のことはハンマーが弦をどう叩くのかという視点から見ると説明がつきます。

この構造を理解した上で、各ピアノや会場によって聴こえ方が変わってくるので、これに合わせて弾き方を変えていくというか、目の前の楽器に慣れていくという感じかなと思います。

鍵盤の底を意識するメリット

鍵盤の底を意識しようとすると、実際には指で押し下げながら「いつ底につくかな」っと頭の中で考えていると思います(もちろん一瞬の時間の中でです)。

これが構造視点から見ると結果的にはハンマーの上がり方を意識していることになります。

動画を見て頂くとわかるのですが、鍵盤から弦などの楽器本体の距離ってかなり離れています。ですので、このハンマーの感覚が鍵盤から感じることが出来れば”楽器との距離”も縮まるのかなと思います。

というわけでまとめます。

まとめ~「鍵盤の底を意識する」を構造視点から見ると、、、~

  • 鍵盤が底につくとほぼ同時にハンマーが弦を叩いている
  • 弾き方や奏法を変えるとハンマーが現に向かっていく時の動き方(結果弦の叩き方)が変わる
  • そして弦の振動が変わって音が変わる

以上になります。

ガチの構造説明シリーズ2回目は「鍵盤の底を意識するの先の”先”」という事で、”鍵盤が1cmしか下がらない”という言葉について掘り下げていきます。この1cmは演奏者側から見て構造を考えた時には正解ではないという内容になっています。

楽器の構造の知識が皆さんの演奏や音楽の役に立てばとても嬉しいです。
何か取り上げてほしい内容や、知りたいこと、聞いてみたいことなどありましたら、YoutubeまたはTwitterで是非コメントをください。

さいごまで読んで頂きましてありがとうございました。
としさん