Q&A3、カプースチンについてピアノ調律師としてどう思われますか?

  • 2020年8月23日
  • Q&A

こんにちは!としさん@津久井俊彦です!
横浜を拠点にピアノ調律師やってます♪

ご質問

最近カプースチンを練習しています。カプースチンという作曲家について、調律師視点から見てどう思われますか?

とのメッセージを頂きましたので、これを記事にしました。
(許可を頂いて記事にしています)

回答

想像の斜め上をいくテーマとはまさにこの事。

僕にこの内容の質問をされるという事は、ひょっとするとカプースチンの曲をピアノの構造的な視点から上手く弾く方法を知りたいのかもしれません。
大変申し訳ないのですが、経験、知識不足もあり、今の時点では全く想像もつきません。

ですがせっかくお問い合わせを頂いたので、調律師として別の視点から書いていきます。

ピアノ調律師が考えるカプースチンを弾くのに必要なもの

カプースチンは調律師の専門学校に通っていた頃に、クラスメートが弾いていたのがきっかけでハマって、当時狂ったように同じCDを毎日聴いたのを覚えています。今でも年に数回カプースチンブームがきます。

さて、調律師視点からカプースチンという事ですがこの作曲家の作品、簡単な曲って一つもないですよね。

弾くにはおそらくかなりの技術が必要です。
そして技術以外にもう一つ必要なものがあります。

よく調整されたピアノです。

カプースチンコンディションのピアノ

バッハからハイドン、モーツァルト、ベートーベン、そしてロマン派のショパン、リスト、そしてドビュッシーやラフマニノフ、それぞれの時代・国に作曲家がいたわけで、この偉大な作曲家たちの作品が今でも世界中で演奏されています。

彼らの曲を弾こうと思ったら、楽譜を見ながらこの時ショパンは何を考えていたんだろう、ベートーベンはどんなに苦しかったんだろう、とか考えますよね。言うならば作曲家はどれだけ悩んでここにこの音符を書いたんだろうって。突然の休符とかいきなりの半音階とか見るとちょっとテンション上がりますよね。何があったの?!って。もはやロマンです。

さて、これらと合わせて僕が最も興味を持つのはズバリ、

当時どんなピアノでこの作品が演奏されていたのか。

作曲家は仕事として作曲をしていたわけで、演奏できない(演奏できる人がいない)曲は基本的には作曲しません。って事は当時存在していた楽器や演奏家を想定して書かれているはずです。
※例外もたくさんあるはずです。

”ピアノのための”って書いてあっても彼らは今のスタインウェイは知らないわけです。もちろん新しい人は別ですよ。

例えばリストが弾いたピアノは、今のアップライトピアノと同じように鍵盤を上まで戻さないと次の音が出ない仕組みの物もありました。超極端な話、リストの曲は基本アップライトピアノで弾けない事はないという話になります。

※僕の個人的な経験によるものですが、アップライトピアノを最大限に調整すれば毎年音程合わせしかされていないグランドピアノよりもはるかに弾き易くなります。

そしてカプースチンですが1937年生まれです。つまりバリバリの現代ピアノで作曲しています。という事は今のピアノの最大値を彼は知っているわけです。

現代ピアノは昔の作曲家が生きていた時代のピアノと比べると、かなりシステマチックになって弾きやすくなっています。多少調整されていなくても、当時の楽器を想定して作曲された曲は弾くことはできるでしょう。

ですがカプースチンの曲を演奏するにはただの現代のピアノではおそらく足りないはずです。

グランドピアノ・アップライトピアノ共に、さらに”そのピアノの性能が最大限に発揮されている状態、カプースチンコンディション”が必要なはずです。
弾きづらいピアノで無理に頑張って練習したら絶対にケガしますよねあの音符の数。僕も当時楽譜を買ったのですが、すっかり観賞用になっています。

話は反れますが、調律師さんってピアノの近くに楽譜が置いてあったりするとつい見てしまうものなのですが、そんな時にカプースチンの楽譜が置いてあった日にはちょっと気合入ります。

さいごに~オススメYouTube~

ここまでカプースチンについて調律師視点から書いてきました。

先ほど、「昔の作曲家の曲なら調整していなくても弾くことはできる」と書いたのですが、これはあくまでも鍵盤を押さえることは出来るという意味です。
ピアノは現代に進むにつれてメカニックの進歩により圧倒的なテクニックに対応できるようになりました。しかしその代償として魔法のような表現力(音楽力とでも言いましょうか)はどんどん失われています。

当時の曲を今のピアノで弾くという事はテクニック的には簡単になっているが、音楽的には実はとても難しくなっているという事です。作曲家が生きていた時代のピアノは今でも魔法のような音と響きを持っています。

つまりピアノ調律師として何が言いたいかというと、どの曲を弾くにしても良い音楽のためにはしっかり調整調律されたピアノであることが理想という事です。

たまに見るYoutubeの演奏です。ピアニストの視線からの映像が楽しめます。

以上になります。
読んで頂きましてありがとうございました。としさん