たまには少し本気のピアノ調律技術論を・・・

こんにちは!としさん@津久井俊彦です!
横浜を拠点にピアノ調律師やってます♪

※トシブログ毎日投稿中です。

普段は日常で感じた事だったり、ピアノをお持ちの方に役立ちそうな内容の記事を書いているトシブログですが、たまにはとっても偉そうに専門用語だらけのピアノ調律技術論でも少し書いてみようかと。といっても現時点での考えなので、未来の自分がこれを読んで「こいつ何ばかな事書いてるんだ」って思うくらい技術向上しているのが理想です。

小難しい内容になるかもしれないので、間に入れる写真はなんとなく”楽しそう”な写真を意味もなく入れていきます。

※一般の方はこちらを読んで頂いてからだとひょっとすると想像しやすくなるかもしれません。

ピアノの”調律”と”調整”の違い

個性1点押し

僕がピアノを調律する時に1番気にしているポイントはピアノと空間それぞれの個性です。この2つの個性をしっかり理解して感じとって、お互いの良さを1点押ししていきます。これはホールはもちろん一般家庭も同じで、これらは日本とオーストリアでは大きく個性が異なりますが、それでもこの個性を必死に探して見つけ、その長所を一点攻めしていくイメージです。

「短所は放置するんですか?」という意見を持つ人もいると思いますが、僕の場合は長所を突き詰めた先には短所も個性の1つとして、またキャラクターとしてむしろ長所になるという考えを持っていて、個性を出していきながら、その気になる部分、いわゆる短所がどう変容していくのかにも常に気を配っています。

さて、この個性をどう見極めるのかについてはおそらく一生考え悩み続けたいところではありますが、現段階ではピアノの発声の変化の仕方、それからシンプルに音量が一番弱い音から強い音までの幅が広い事、同じ強さで鍵盤を押す位置を手前から奥まで変えた時にちゃんと違う音が出ること、あとは3和音、例えばC-DurとC-mollの時にCとGがそれぞれどっちに動くのかなど、傾向としては「どう変容するのか」という部分に注目している自分がいます。

「どう変容するのか」に注目している=単音は聴いていないのかというとそういうわけではありません。その時に鳴っている音というか発声・発音というものに僕は楽器と空間そのもの魅力として感じる事が多くて、楽器が楽に歌ってくれているかどうかを確かめるのに単音そのものも聴いたりします。

ピアノというのはなかなか面白くて、グランド・アップライト含めて同じメーカー同じ機種でも出したがっている音というのは違くて、これにプラスして置かれる環境というのが掛け算のように作用して、もっと言うとそれまでどんな使われ方をしてきたのかも考えるとシチュエーションは無限にあるとも言えたりします。

ではこれを見極めるという点でもう少し具体的に何をするのかというと、それはやはり基本的な調整を積み上げていきながら音の反応を確かめます。よほど経験を積んだ調律師さんであったり、よほど個性が強いピアノであれば、状態関係なく「このピアノはこうだな」というのがすぐにわかって理想まで一直線に向かっていけると思うのですが、今の僕ではこれは難しいので、常に確かめながら過去のピアノ達とも比較してこの部分に向かっていきます。

ここで大事な事を1点。「弾き手の事は考えてないんですか?」と思った方いらっしゃるはずです。これは調整の段階や弾き手の要望の種類のシチュエーションによって大きく変わります。ただ95%以上の場合、時間があって楽器と空間の個性を出していく方向に向かえばその要望はクリアできる感覚があります。

ただ弾かれる方が手首を固めて弾いていて「もっと柔らかい音が出てほしい」と言われた場合には、この考えとは違う事が必要になるため、その要望がどれくらい必要なものなのかなども伺って慎重に作業を進めていきます。僕はピアノを弾かれる方が自分のピアノが好きになって頂く事が一番嬉しいので、特に趣味で弾かれる方のピアノはこういった要望にもお応えしています。

またもう1つ例外を出すとすれば、公共の場所にあるピアノでしょうか。こういったピアノは常に真ん中に保っておく必要があるため極端な要望に対してはノーと言わないといけない事が多いと思います。こういったシチュエーションでは何かを大きく変えることなくそれでも要望に応えていけるだけの技術が必要になってきます。

さて、それでは更に専門用語の多い具体的な内容へ。ここでは一般家庭のピアノについて書きます。

一般家庭ではピアノを動かす事はほぼ出来ないため、ピアノの調律・調整というのが99%の割合を占めます。では何を考えて調整するのかというと、「あるべき状態」にもっていくという事です。

まずはピアノ内部の掃除から始まります。アクション内部はもちろん弦の下から響板の裏側なども含めて徹底的にやります。これだけで音はかなり変わります。僕の感覚としては、変わるというよりはその後に何かを調整した時に音が変わりやすくなります。例えば鍵盤の沈む量を0.1ミリ変えた時に音の変化がちゃんと出てくれるのか、楽器がどう反応するのかという事は本当に大切な事で、これが掃除が出来ていない事によってわかりにくくなると、その先の工程の精度はワンランク低いものになっていきます。

そしてそれぞれの部品の位置関係をこれもあるべき状態の場所にあるよう調整をして、それからアクション部分の調整、調律師用語では整調に入ります。このように掃除から調整を積み上げていく時に注意している事があって、それはつい先ほども書いた「何かをした時にそれが音に反応するのか、変化がしっかりあるのか」という点です。このために調整の順番もその都度変えていきます。

僕の中では調整という言葉は、下準備(掃除など)・整調・整音・調律の4つに分かれていて、作業の順序として理想はこのまま下準備→整調→整音→調律です。(この順序は調律師さんによって考えが違う方もいて、そのどれもが認められるべきと僕は考えています。)

それぞれの工程の中でも細かい順序というものが存在していますが、これら全てがその時々、ピアノの状態などによって変わっていきます。例えば本当は整調からやりたいところだけど、何をしても音の反応が鈍いので、軽く整音と調律をやってしっかり変化が聴きとれるような状態にしてから整調をやる事も現実多いです。仮に時間が限られていても、大きく分けて4つの工程から音が変化してくれるポイントまでの近道を選んで調整していきます。

さらにさらに具体的に書いていきます。

各メーカーそれぞれピアノを調整するにあたっての基本的な寸法というものが存在します。いわゆる具体的な数字による基準が示されています。ただこれはあくまでもただの基準であって、この通りにすれば良い音が出るのかというとこれは全く違います。ピアノは工業製品ではなく楽器としてこの世に生まれているからであって、この部分は人間にも若干通ずるところがあると思います。

鍵盤の沈む量1つとっても1台1台違うし、整音から調律まで全てが変わってくると思います。これはヨーロッパでも各ホールでもピアノそれぞれ寸法が全然違うなんて事は当たり前で、個性というか魅力に合わせてそれを伸ばす方向へフルコミットされているような印象があります。

続く・・・

読んで頂きましてありがとうございました。
としさん@津久井俊彦