ピアノの音色の変え方

こんにちは!としさん@津久井俊彦です!
横浜を拠点にピアノ調律師やってます♪

ピアノって弾き方が変わると音が変わりますし、同じピアノでも別の人が弾くとやはり音色が変わりますよね。(発表会で体験される方が多いかもしれません)。もちろんリズムやテンポ感でも音色を感じさせることも可能です。

この中の単音での音色が変わるという現象のうち、99%は説明が可能です。というよりはほぼ同じ現象により音色が変化しています。ちなみにこの残りの1%、説明がつかない魔法のような音色の変化を自在に引き起こせる人が音楽家です。

本記事ではこの音色の変え方について調律師としての視点からまとめました。
長くて且つ見慣れない単語が並んでいるかもしれませんが、ピアノを弾く上ではかなり役に立つ情報ですので、是非読んでみてください。
(少しでもわかりやすくなるように定期的に修正を加えていこうと思っています)

音色とは

弾き方を変えると何が起きて音色が変わるかという説明の前に、まず”音色”とは何かという事です。

色々な表現がありますよね。

芯がある音、丸い音、やわらかい音、ハッキリした音、

あるいはオーケストラの楽器、例えばクラリネット、トランペット、チェロから打楽器まであげればキリがないです。
オーストリアだと発音発声を変えるなんて表現をする時もあります。
この音色の聴き分け(弾き分け)で僕の考える最も重要なポイントは、以下の2点。

”鳴ってる音を全て聴く”

”聴き方を何種類か変える”

全てというのは音の立ち上がりから聴こえなくなるまでの事です。

上に書いた、芯がある音、丸い音、やわらかい音、ハッキリした音、これらは全て音の立ち上がりの部分だけの音色です。

立ち上がりも聴きつつ、その後の音がどう伸びていくのか、あるいは減衰していくのか、どう変わっていくのかまで聴いてください。

聴き方を変えるというのは、ピアノの音をいつもの音の聴き方だけではなく、僕の師匠がよく言っていた歌声に例えてもいいですし、開いた発声閉じた発声、オーケストラの楽器に例えてもOKです。

なんとなく立ち上がりの発音が英語のPっぽいとかでも全然OKです。

とにかく音を全部聴くこと、ピアノの音を別のものに例えて聴くことです。

ピアノという楽器はその特性上どうしても弾くことに意識がいってしまい、音を聴くという最も重要な部分が抜けてしまう。という内容のピアニストのコラムを読んだことがあります。

確かにどの楽器もロングトーンっていう超基礎の練習があるのに、ピアノだけはないですよね。ちなみにピアノでのロングトーン、デームス先生や彼の先生達はよくやっていたそうで、いつもピアノを弾く前に何パターンかのタッチで1音鳴らしてそのピアノがどんな音が出るのか確かめるって言っていました。確かに彼はいつもポーーーーーーーーンって各音域で音が聴こえなくなるまでずっと鳴らしていました。

ですので他の楽器のお知り合いがいる方はぜひロングトーンについて質問してみる事をオススメします。

これから書く内容は基本的に1音、鍵盤ひとつの動きとその先で起きていることに注目しています。試す際は適当な1音を選んで頂ければと思います。

音色が変わるとは

音色が変わるという現象について、ピアノ調律師視点でなるべく簡単に解説します。

弾き方を変える→〇〇→音色が変わる。

このたくさんある〇〇の部分をひとつずつ埋めていく作業です。
音色、音が変わるということですが、まずこの”音”とは何か。ずばり空気振動です。

音色が変わるという現象はこの空気の振動の仕方が変わるという事になります。

ではピアノの中でどの部分が空気を振動させているでしょうか。

共鳴板、及び楽器全体です。

ではではピアノの中で最初に振動する部分はどこでしょうか。

弦です。(弦が鳴る前から鍵盤が振動してるとか言うとややこしいので、弦という事にします)

ではではでは弦を振動させるものはなんでしょうか。

ハンマーです。

ではではではではハンマーを持ち上げているものはなんでしょうか。

鍵盤です。(これもウイペンやらジャックやらあるのですが、鍵盤という事にします)

最後に鍵盤を動かしているものはなんでしょうか。

指です。

この先は奏法の話になって僕は完全に素人になるので、ここでストップです。

基本的に”体全体に力を入れて”とか、”肩甲骨”とか”脱力”とかも含めて何かを変えると、この指から鍵盤を伝った先の部分の何かが変わって音に反映されます。

ここまで簡単にまとめます。

音色の違い→空気振動の違い→楽器の振動の違い→弦の振動の仕方の違い→ハンマーの弦の叩き方の違い→鍵盤のハンマーの持ち上げ方の違い→弾き方の違い

逆からも書きます。今度は縦書きにします。

①弾き方を変える

②ハンマーの持ち上がり方が変わる

③ハンマーの弦の叩き方が変わる

④弦の振動の仕方(振動の形)が変わる

⑤共鳴板、及び楽器の振動の仕方が変わる

⑥周りの空気の振動が変わる

⑦音色が変わる

もっと細かく書けるのですが、ざっと書いてもこのようになっています。

この間が全部抜けていたら、なんとなくというか雲をつかむような感覚になるのは当然です。

ちなみに上に書いた⑦までのうち、弾き手がコントロールできる部分は①~③、鍵盤に指先が触れてからハンマーが弦を打つまでです。ここに神経を集中させましょう。④から先は結果論のようなものです。

弾き方を変えた時の音色の変化の正体

ここで打楽器を思い浮かべてください。和太鼓にしましょう。和太鼓を叩く時に音色を変えようとした時にはどうされますか?

打ち方を変える方法の他に思い浮かぶのは、持っているバチを変える、さらにもうひとつ、打つ場所を変えるです。

和太鼓ってずっと真ん中だけ叩いているわけではないですし、真ん中を叩くときはいつも大きな音ってわけでもないですよね。

強く端っこに近い部分を叩くこともありますし、弱く真ん中を叩く事もあります。

ここで結論を言います。

ピアノは弾き方によって、ハンマーが弦のどの部分を打つのかを変えることができます。

(目で見てもわからないくらいのごく僅かな距離ですが、変えることができます。)

もう少し突っ込んで書くと、

ハンマーがくっついている棒(ハンマーシャンク)のしなり方をタッチによって変えることができます。

しなり方が変わると打つポイントも変わります。

これは左ペダルを踏んだ時のような横軸の話ではなく、グランドピアノでいえば弦の手前の方を叩くか奥の方を叩くかです。アップライトでいえば上の方と下の方です。これによってハンマーと弦の接触時間なども変わってきます。

弦の打つ場所が変わると、倍音の出方および基音の出方が変わります。これが音色の変化の正体です。

この倍音という言葉が出ると、これまた複雑になるので書きません。

倍音がどう変わったら音色がどう聴こえるのかについて知りたい方もいるとは思うのですが、

この音色の変わり方についてはピアノメーカーや置いてある場所、調律でも変わりますし、人によっても感じ方は様々です。

それよりは、どう変わったのかがわかる自分の中での物差しみたいな物(聴き方)がいくつかあれば理想です。

~ハンマーがくっついている棒(ハンマーシャンク)について~

これはグランドピアノの人は見やすいはずです。

鍵盤を押すとハンマーが弦を叩くということは、例えばピアノの先生であればご存じのはずです。

このハンマーに棒が付いていて、その棒の端っこを鍵盤という手で掴んでいるイメージです。

これはマリンバやビブラフォン、木琴鉄琴のバチを思い浮かべて頂ければ完璧です。

このバチ、叩き方によって棒部分のしなり方を変えられますよね。

ピアノも同じです。もちろん明らかに目で見てわかるほどはしなりませんが、実際しなっています。

この有名なトムとジェリーのピアノの映像。このYoutubeの06:18の棒を持って弦を叩いているところ、もちろんこの映像は極端ですがイメージとしてはこんな感じです。

具体的な弾き方(しなりの変え方)について、次に書いていきます。

もちろんトムとジェリーのようにハンマーを折って弦を叩くのは禁止です。。。

具体的な弾き方

ここでも結論から言います。

鍵盤が下に下がるまでの加速度が関係しています。

(わかりづらいですよね)

マリンバのバチを持っているとして、手首の使い方によって棒のしなり方がかわりますよね。コンパクトに振るのか、大きく振るのかの違いです。音色はもちろん音の出るタイミングも変わってきます。

この加速度を変えると棒のしなり方が変わるわけですが、鍵盤が下につくまでの距離はたった1cm。この1cmの間に押し下げるスピードを加速させたり減速させたりするのは難しいですよね。

しっかり方法があります。

鍵盤の場合のポイント2つです。

①指と鍵盤のふれている点(鍵盤のどこを弾いているか)

②指と鍵盤の接点の移動

①についてですが、鍵盤はシーソーになっていて、手前を弾いた時と奥(黒鍵の間)を弾いた時では重さが違いますよね。重さが違うって事は下に下がる時のスピードも違うという事です。そしてこの鍵盤というシーソーの反対側にさっきジェリーが持っていた棒とハンマ-が上向きについていると想像してください。この棒がしなってハンマーが弦を叩きます。このしなり方も違います。

1番最初に書いたロングトーン、鍵盤の手前と奥を弾いたときにどう違うのか試してみてください。音量を同じくらいで弾いたとしても音色は違うはずです。ちなみに音量が同じという事は、鍵盤の手前と奥で弾く力を変えなければなりません。

音は色々なものに例えてみてくださいね。オーケストラ、言語、歌、色etc。硬い柔らかい丸いでももちろんOK。

②についてです。指と鍵盤の接点の移動とありますが、弾いて音が鳴った後に指を動かすと言っているわけではありません。

これは鍵盤を押し下げながら手を上にあげる。つまり最初指の腹で鍵盤に触れて鍵盤が下についた時には指先が触れているという状態の弾き方です。この逆もです。

鍵盤が下に下がる過程で勝手に指との接点が移動しています。そうすると、鍵盤の加速度が変わって結果的にシャンク(棒)のしなり方が変わる→弦を打つ場所が変わる→音色が変わるという流れになります。

実践的な例でひとつ、デームス先生がよく話していた「同じ音符が3つ並んだら間違いなく何かの言葉を当てはめて、そのように弾く」という言葉があります。これはその音がちゃんとその言葉に聴こえるようにリズムと弾き方(音色)を変えて弾くというものでした。もちろん音にしてもものすごく微妙な変化ですが、確かに間近でよーく見ると3音とも鍵盤の弾く位置を変えていたり、ちょこっと手首を上げたり下げたりしていたのを見たことがあります。彼くらいになるとオートマシーンのようにやっているように見えて、実際質問したことがありますが、その答えはやはり「よく音を聴いているだけ」でした。3和音の連続とかも毎回3音とも全部弾き方変えるって言って見せてくれたことがありますが、まあ衝撃でしたし、ちゃんと調律しようって思いました。。。

さいごに

ここまで長く書いてきましたが、理想は自分の体が鍵盤から先と一体になること。ハンマーと棒をマリンバのバチくらいの感覚で自由に操れたら音色も操り放題です。イメージすべきはマリンバのバチです。

ちなみに調律する際はこの音色の反応が各鍵盤揃うようにしています。シンプルなところで言えば、同じ鍵盤の手前と奥をそれぞれ弾いた時に同じ音色という事は絶対にあってはなりません。

具体的な音色の変化の仕方についてはピアノそれぞれで一概にこれはこう!とは言えません。が、弾き方を変えるとハンマーの弦の叩き方が変わるという事だけでも理解しておくと、初めて弾くピアノにも対応しやすくなると思います。

今回書いたこと、これはあくまでも調律師からの視点です。かなりメカ的な見方ですよね。ただこれがわかっていると、初めて弾くピアノへの対応力が抜群にアップします。
この記事が少しでも役に立てば嬉しく思います。

以上になります。
最後まで読んで頂きましてありがとうございました。としさん