調律だけだとピアノが壊れていく時代になっている

  • 2025年11月17日
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調律師同士で話題に上がる「最近どうですか?」

ピアノ調律師同士で連絡を取り合った時の「最近どうですか?」
これは「仕事うまくいってる?」だけではなく、「最近の調律先のピアノ、何か変わったことあった?」という情報共有の意味も含まれます。

「この年代のピアノが最近こういう変化を見せる」
「こういう症状のピアノが増えてきた」
そんな話題は昔からあります。そしてここ1年ほど、驚くほどよく出るテーマがあります。
それが “ピアノの疲労” です。

ピアノの寿命は“環境次第”。そして消耗部品の存在

「ピアノって何年持ちますか?」と聞かれることがありますが、リアルな答えはケースバイケースです。
同じ年代・同じメーカーでも、それまでの環境によって寿命は大きく変わるので、「ピアノは〇〇年持ちます」と簡単に断定できるものではありません。
さらに、ここで言う“寿命”は本体だけの話ではありません。ピアノには無数の消耗部品があり、弾けば弾くほど摩耗するものもあれば、弦のように何もしていなくても張力によって消耗する部品もあります。

そして部品によって交換にかかる時間も費用も大きく違います。

最近とくに限界を感じる部品:それが“弦”

近年、調律師として多くのピアノに触れる中で、「限界が近い」と感じる場面が目立ってきた部品があります。
それが “弦” です。「弦が切れた」という連絡がここ数年で増えているというのも話題になります。

弦が劣化してくると、
・音の伸びがなくなる
・雑音が混じる
・調律や演奏中に切れやすくなる
という症状が出ます。

そして弦の交換は大仕事。全弦張り替えとなると、ピアノの運び出しが必要になることも多い作業です。また一本だけの張り替えでも、新しい弦はすぐに狂ってしまうため、すぐにその弦の再調律が必要になります。もちろんその度にお金も掛かってしまいます。

なぜ今、ピアノの劣化が一気に進んでいるのか

調律師仲間と話すと、「ピアノの変化の仕方そのものが、昔と明らかに違う」という共通認識があるように思います。

15年ほど前、ピアノをお持ちの方に加湿器や除湿器を強くすすめることは、今ほど多くありませんでした。お仕事で使われている方やコンクールに挑戦している趣味の方はさておき、一般の方には「もしあったらより快適に弾けますよ」くらい。

しかし近年は、「うちはプロになるわけではないので。」なんて言われたとしても、「この環境のままでは何か対策をしないとピアノがダメになります」と言わざるを得ないケースが増えています。

その理由は主に2つ。

理由①:季節の変動が昔より極端

昔よりなんとなく春と秋が短くなっている感じってありますよね。

この短期間で湿度が急上昇したり、急激に乾燥したりと、昔より“振れ幅”が大きくなっているため、木材・フェルト・金属で作られているピアノには強い負担がかかります。

理由②:空調家電の進化により、環境が急変しやすくなった

エアコンや住宅の性能が進化し、部屋の気温・湿度が 短時間で大きく変化する時代 になりました。

人間には快適でも、ピアノへの負荷が大きくなってきています。

なぜならピアノは“急激な変化”に弱い楽器だからです。

価格高騰の時代、修理費は“購入額レベル”になることも

さらに追い打ちをかけるのが、近年のピアノ価格高騰です。
新品・中古を問わず値段は上がり続け、修理費が「当時の購入額に近い」という例も珍しくありません。

だからこそ言いたいのは、“今あるピアノを長く使える環境”をつくることが最も価値があるということです。

手軽にできる対策のひとつ:エアコンカバー

音湿度計を置く、湿度管理をするなどが基本ですが、「そこまで機材を増やすのは…」という方も多いのが現実です。そんな方におすすめなのが エアコンカバー です。

エアコンの風がピアノに直接当たらないようにしたり、部屋全体をゆっくり暖められるので、急激な環境変化を防ぐ効果があります。

最近の調律先では、エアコンの向きに関係なく付けたらピアノの調子が良いという声もたくさん聞いています。

エアコンカバー

ピアノの先生に特におすすめ:二段階暖房

レッスン室や子ども部屋などのピアノの場合、キンキンに冷えたお部屋でいきなり高い温度で暖房を入れると、ピアノには非常に大きな負担になります。

そこでおすすめなのが 二段階暖房

① まず低めの温度で30〜60分暖める
② その後、いつもの温度まで上げる

慣れるまでは面倒ですが、「音が安定した」「調律の持ちが良くなった」との声が非常に多い方法です。

記事のまとめ:「今まではなかった」は環境が変わった証拠

最後に一番伝えたいことがあります。

ピアノにトラブルが起きた方からSNSなどで相談を頂いて、実際に様子を見に伺った時にほぼ必ず聞く言葉があります。

「今まではこんなことなかったんです」

実はこの言葉は、ピアノを買い替えたばかりの方からも同じように聞きます。

これはつまり、ピアノが悪いのではなく“環境がピアノを消耗させている”ということです。そしてその環境が変わらなければ、消耗が理由で買い替えた新しいピアノでも同じ症状が“より早く”出てしまいます。

空調家電の進化、住宅の高気密化、季節変動の極端さ――
これらが重なって、“昔と同じ環境ではピアノを守れない時代”になりつつあります。

だからこそ
・急激な温度変化を避ける
・湿度を見える化する
・風を直接当てない
・ゆっくり暖める(二段階暖房)
・必要に応じて加湿器、除湿器などを置く


これらの工夫が昔よりも確実に重要になってきています。

“今まで大丈夫だったから”ではなく、“これからも大丈夫でいるために”環境を整えることが、お持ちのピアノを最も長く守ってくれます。

調律師さんが今度くるタイミングがあれば、今のままでピアノは大丈夫かどうかをぜひ相談してみてください。

最後まで読んで頂きましてありがとうございました。
としさん@津久井俊彦